夏目漱石文学における個人主義の位相に対する考察 -時代と作家と作品の相関性という観点から-
A study on the phase of individualism as to Soseki Natsume's literature
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本稿では、時代と作家と作品との有機的な相関性の論証を試みる、歴史主義的立場から、夏目漱石文学における個人主義の位相を探究した。 まず第1章で夏目漱石(1867~1916)の生きた明治(1868~1912)期の時代的特徴を捉え、西欧の影響による個人主義の拡充という自我の問題が特に日露戦争終結期以後から社会化していたということを詳察し、第2章にて明治期とほぼ等しくその生涯を過した漱石が、西欧の文学に対する実存的な懊悩を経緯して対西欧的な自己本位という個我の自覚、さらに言えば、対西欧的な位相を帯びた個人主義のイデーを形成し、日露戦争終結期に処女作『猫』を以て作家としての出発を遂げていたという、彼による文学的道程を検証した。そして第3章では、かような時代的状況の中で、かような文学的認識を抱懐する、漱石に創作された主なる作品群に、個人主義と関わる争点が内在する様相を解題する作業を行なった。 自我の実現にその価値を置く個人主義は、そうした意志が過剰に発現される場合、利己主義自⋅由主義⋅物質万能主義さらには権力⋅金権力をも引き起こす可能性を多分に秘めているが、処女作『猫』から生起するこのような命題が、中⋅後期作における深化を経て、最後の完結作『道草』において他者への利他を思慮⋅心慮した上での個人主義の立場を具象して見せる漱石文学とは、西欧化の影響により個の自覚が発揚した場合に人と人との融和が損傷され得るというテーゼに対する追究と解題の過程であったということが言えるであろう。 こうした、彼による文学に表徴された個人主義の位相とは、かような風潮の瀰漫する時代的⋅社会的状況に対する反例的な現象としての側面を帯びていたと言っても過言ではないであろう。
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