夏目漱石の『趣味の遺伝』の構造に対する一考察
A study on the structure of Soseki Natsume's 『Shuminoiden』
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本稿では、第1章で、中心人物であり語り手である<余>が、過去の出来事について叙述しながら、読者に語りかけ・働きかけるという状況を検出し、『趣味の遺伝』の作品世界は、<<余>が過去の体験を書いている過程>であることを把握した。そして、第2章では、<余>に叙述されている話の内容の様相をできる限り詳細に把捉し、この作品が<<余>が過去の体験を書いている状況が記述されている過程>であることを検証した。またさらに、第3章では、このような作中世界をさらに精密に分析し、この作品が、<自己の才気性の社会的な評価を強く求める学者であり・恋愛感情の遺伝の理論を考案したという過去の体験を持つ <余>が、小説という形態を通じて、かような過去の体験を題材とする成功譚を書いてみたところそれがうまくいかず、結局は、前半部にインファスィスした日露戦争の戦死者・遺族のモチーフと終局部の叙述を至妙に縫合し、厭戦性の光輝する小説への転換を取ることを以て、プロットと自己顕示的な欲求の調整をは図ったという話>を中心的な事件としているということを考察した。『趣味の遺伝』は、以上のように、<過去の体験をもとに功利的な成功譚を書こうとして小説を書いている<余>が人道的な厭戦性を帯びた小説へと書き換えて行く転換の過程>が記述された作品であり、転換点が位置する終焉部以降と、前半部が連結されることで、厭戦的な構えと筋が生じている。つまり、この作品は、叙述する<余>の意識を中心として考えるならば、戦争を厭う主旨と目的を持って書かれた厭戦文学であるとは言えず、その構成に重点を置いて考慮するならば、厭戦的であるとも言える。このように『趣味の遺伝』を厳密に探究する限り、この作品は厭戦小説と言うべきなのではなく、厭戦性を帯びた創作であると論定されるべきなのであろう。
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