『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の和語の仮名遣い
A Study of “the Wago-Kanadsukai” in Compendia of the Jesuit College of Japan
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本稿は、日本語史において仮名遣いの重要な時期に該当する慶長期の仮名遣いを提供するとともに、キリシタンの文字社會を明らかにして日本語表記史に位置づけるために、キリシタンの寫本の一つである『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の和語の仮名遣いを考察したものである。 まず、『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の動詞の活用語尾の表記をみると、おもにハ行四段動詞の活用語尾は「ハ・イ・フ・ヘ」、ハ行下二段動詞の活用語尾は「フ・ヘ」、ヤ行下二段動詞の未然・連用・命令形の活用語尾は「ヘ」、ワ行下二段動詞の活用語尾は「ヘ」、ヤ行上二段動詞の活用語尾は「イ」、ワ行上一段動詞の活用語尾は 「イ」の表記である。これに對して『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』と同じ文字社會のキリシタン版國字本宗敎書の仮名遣いは、ハ行下二段動詞の活用語尾だけが『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』と完全に一致するのみで、他はゆれているか不一致である。また、このような傾向は久保田篤(1986)で調査した近世初期版本の表記とも似ている。 次に、『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の動詞の活用語尾以外の表記をみると、語頭のi音、wo音は「イ」、「ヲ」で、語中・語尾のi音、u音、ye音、wo音は、それぞれ「イ」、「ウ」、「へ」、「ヲ」の表記で安定している。しかし、語中・語尾のwa音は 「ワ」と「ハ」の表記が拮抗しており、語頭のye音は「ヱ」であるが1例だけなので判斷が難しい。これに對してキリシタン版國字本宗敎書は、語頭のi音は「い」、語中・語尾のi音、ye音、wa音はそれぞれ「ひ」、「へ」、「は」表記であるが、他は表記の優劣が判斷しにくい。今野眞二(1984)で調査した連歌書と久保田篤(1986)で調査した近世初期版本の仮名遣いも、キリシタン版國字本宗敎書の表記と類似の傾向である。ここから判斷して、『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の動詞の活用語尾以外の表記は、一部一致する部分もあるが、全体的には異なるものであったことが分かる その次に、当時の仮名遣いとの關係を見るために、歷史的仮名遣いと一致しない『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の75語を、当時の仮名遣書、易林本『節用集』、仮名文獻『狹衣の中將』と比較した。その結果、これらの文獻の仮名遣いと一致する語が少なかった。 以上のことから『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の仮名遣いは、キリシタン版國字本宗敎書の仮名遣いとも、当時の仮名遣書の仮名遣いとも異なるものであったことが分かる。すなわち『イエズス會日本コレジヨの講義要綱』の仮名遣いは、これらの文獻の仮名遣いとは異なる慶長期のもう一種の仮名遣いであったと言えるだろう。
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