兼家の 反「色好み」性 ―道綱母の不幸感の源泉として―
Kaneie's Reversed "Irogonomi(Sensuality)"
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초록
三人称の物語的な口調ではじまる序文には、作者が現実世界を「はかなく」感じ、「とにもかくにもつかで世に経る」中で貴人との結婚生活を日記で書いた経緯が述べられているが、その結婚生活の空しさの発端は、古物語の世界との大きな格差に対する認識に始まっている。日記執筆に臨む作者の内面において古物語の存在が如何に大きかったかが顕わになる。 平安貴族社会では、女性達が物語を多く耽読していた。『蜻蛉日記』の作者道綱母も例外ではなく、一人の人間の思考世界形成において最も重要な時期である少女期から物語読みに熱中し、古物語の世界と現実の事象とが重なり合うという夢想に、無意識に陥っていったであろう。古物語には、貴公子と結婚し、幸福な人生を過ごす女性が描かれているのである。 従来は、道綱母の不幸感が、一夫多妻制という、当時の結婚の形態に因るものと大まかに言われてきた。もちろん、根本的な理由はそこにあろうが、しかし、それで簡単に片付けられないものがある。当時の社会制度(結婚制度)の構造に対する認識は、道綱母にも当然あったはずである。道綱母の不幸感は、一夫多妻制という結婚制度そのものに起因するよりは、その制度の中で持ち合わせるべき資質が兼家には足りなかったことに因るのではないかと思われる。当時、物語の中で理想的な男性が身につけていた資質とは、「色好み」性である。当時の男性には、多くの妻を持ちそれぞれの妻の心をよくわきまえることで、円満な家庭をなすべきことが好ましいこととされていたのである。古物語に登場する「色好み」の男は、多くの女性を魅了する美質と、和歌や音楽による風雅、そして女性それぞれを破錠なく愛する博愛を兼ね備えた情熱的な性向を持ち合わせていたのである。ところが、兼家は嘗て持っていた和歌の才能や理解力も、時間が経つにつれ、発揮しなくなり、他の女性との愛情行脚によって傷つけられる女心をわきまえることも得意ではなかった。兼家が注力したのは、政治的な出世であって、女性一人一人に対する繊細さには欠けていたのである。そのような兼家の「色好み」性の欠如は、道綱母に不幸感をもたらし、日記という新しい挑戦を促す原動力となる。そして、兼家の反「色好み」性は、日記全般を通して作品世界を動かす内的論理として機能するようになるのである。
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