『秋』論考
The study on the「AKI」
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Abstract
芥川は大正八年, 芸術創作上において、深刻な作家的危機を感じていた。それは『芸術その他』の中で書かれている。芥川はこの作家的危機から逃れるために、その時期まで主に創作して來た歴史物と基督教物から現代物へ眼を向けようとしたのである。そしてそれに当る作品が現代物といわれる『秋』であり、それを通じて自分の作風転換を計ると共に、作家としての再起をもめざしたのは、すでに定説となっている。 『秋』の研究は、主人公〈信子〉の〈俊吉〉への〈愛〉と、〈信子〉の結婚は妹に恋をゆずった〈犠牲的結婚〉とした既存の論に対し、否定的見解を提出した三好行雄氏の論が一つの基点となっている。 本稿は『秋』の作品世界を文脈によって分析し、主人公〈信子〉の〈俊吉〉への〈愛〉の〈存在有無〉と〈信子〉の〈犠牲的結婚〉を中心として『秋』の諸問題を再検討して見ようとした。 その結果、〈俊吉〉の〈信子〉への〈愛〉は確認出來ないが、〈信子〉の〈俊吉〉への〈愛〉は存在し、〈信子〉の結婚は妹のための〈犠牲的結婚〉はないという事実を確認した。 『秋』発表以後,芥川は続けては現代小説をかけず,ふたたび歴史の衣裳をまとった以前の歴史物や基督教物へ戻っていった。だから『秋』によって作風転換をはかって一つの転機としようとした芥川の試図は成功しなかったのであり、とどのつまり『秋』は作風の変化をあらわそうとする芥川の転機にはならなかったのである。 『秋』は芥川が歴史小説から写実的現代小説への作風転換をめざそうとした作品だが,その作風は心理小説に近いものであり、写実性よりも人間心理と季節の情感の結合がかもしだす抒情性こそが芥川の真に意図したものだったと思う。『秋』は写実主義の小説ではなく,秋という季節を背景として人間心理を巧緻に抒情的に描いた心理小説である。
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